東京地方裁判所 昭和38年(行)68号 判決 1963年11月29日
伊東市鎌田字土ヶ久保一〇九三番地の一五
原告
有限会社 大和不動産
右代表者代表取締役
市島徹太郎
右訴訟代理人弁護士
岡部勇二
被告
中野税務署長
今村朝男
被告
国
右代表者法務大臣
賀屋興宣
右被告ら指定代理人検事
真鍋薫
同
法務事務官 葛西和民
同
大蔵事務官 松富善行
同
大蔵事務官 小曾根貞夫
右当事者間の法人税等の更正決定取消等請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
被告中野税務署長に対する訴を却下する。
被告国に対する請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告の請求の趣旨、原因は別紙(一)、被告の答弁は別紙(二)、各記載のとおりである。
理由
原告の請求のうち、昭和三五年六月二九日付熱海税務署長の各課税処分については、これについての審査請求を棄却する決定を昭和三六年四月二二日原告が受領したことは原告の認めるところであるから、その日から三箇月を経過することにより右処分に対する出訴期間は徒過されてもはやその効力を争い得ないこととなつていることは明らかである。また昭和三六年四月二七日付同税務署長の各課税処分については法人税法所定の手続を経ていないことは原告の自認するところであるから、同処分についても、もはやその効力を争い得ないこととなつているものと認めねばならない。原告は行政事件訟訴法第一四条三項但書の適用により本訴は出訴期間の遵守において欠けるところがない旨を主張するが、右第三項は、同条第一項によればなお出訴期間が経過していない場合でも処分又は裁決の日から一年を経過したときは、もはや出訴を許さないとする趣旨であるから、同条第一項の適用がある場合には、同条第三項の適用はなく、従つて同項但書の適用もないものと解すべすきである。それ故、同条一項により出訴期間が徒過されているものと認められる本訴においては、右但書の適用を云々する余地はないものといわねばならない。従つて、原告の中野税務署長に対する訴は不適法であり、熱海税務署長の課税処分がもはやその効力を争い得ないものである以上国に対する請求も理由がないことは明らかである。
よつて、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 白石健三 裁判官 浜秀和 裁判官 町田顕)
(一) 請求の趣旨
一、(一) 被告中野税務署長は、原告に対し、熱海税務署長が昭和三五年六月二九日付及び昭和三六年四月二七日付法人税等の更正決定通知書でなした、原告の昭和三二年一月一日から同年十二月三一日までの事業年度に対する法人税等の課税決定及び更正決定により納付すべき税額金一四三、二六〇円及び金一三六、四五〇円は、過大につきこれを取消す。
(二) 仮りに、右取消請求が認められないときには、被告国は、原告に対し、原告の右事業年度に対する法人税等の課税決定及び更正決定により納付すべき税額金二七九、七一〇円の法人税租税債務が不存在であることを確認する。
二、(一) 被告中野税務署長は、原告に対し熱海税務署長が昭和三五年六月二九日及び昭和三六年四月二七日付法人税等の更正決定通知書でなした、原告の昭和三三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度に対する法人税等の課税決定及び更正決定により納付すべき税額金二〇六、六四〇円及び金一三九、六四〇円は、過大につきこれを取消す。
(二) 仮りに、右取消請求が認められないときには、被告国は原告に対し、原告の右事業年度に対する法人税等の課税決定及び更正決定により納付すべき税額金三四六、二八〇円の法人税租税債務が不存在であることを確認する。
三、(一) 被告中野税務署長は、原告に対し、熱海税務署長が昭和三五年六月二九日及び昭和三六年四月二七日付法人税等の更正決定通知書でなした、原告の昭和三四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度に対する法人税等の課税決定及び更正決定により納付すべき税額金七〇、一九〇円及び金一四〇、五七〇円は過大につきこれを取消す。
(二) 仮りに、右取消請求が認められないときには、被告国は原告に対し、原告の右事業年度に対する法人税等の課税決定及び更正決定により納付すべき税額金二一〇、七六〇円の法人税租税債務が不存在であることを確認する。
四、訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決を求める。
請求の原因
一、原告の本店の所在地は、伊東市鎌田字土ケ久保一〇九三番地の一五であるが、国税庁長官から、昭和三八年三月二日付で、納税地を東京中野区本町通六丁目二番地に指定した旨の通知を受けた。
二、原告は、熱海税務署長大蔵事務官村田勝雄から、次のとおりの法人税等の課税決定及び更正決定を受けた。
(一) 昭和三二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度
1 昭和三五年六月二九日付課税決定
所得金額 三二七、九〇〇円
法人税額 一一四、七六〇円
無申告加算税額 二八、五〇〇円
納付すべき税額 一四三、二六〇円
2 昭和三六年四月二七日付更正決定
所得金額 六三九、九〇〇円
法人税額 二二三、九六〇円
納付の確定した税額 一一四、七六〇円
差引法人税額 一〇九、二〇〇円
無申告加算税額 二七、二五〇円
納付すべき税額 一三六、四五〇円
(二) 昭和三三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度
1 昭和三五年六月二九日付課税決定
所得金額 五〇一、二〇〇円
法人税額 一六五、三九〇円
無申告加算税額 四一、二五〇円
納付すべき税額 二〇六、六四〇円
2 昭和三六年四月二七日付更正決定
所得金額 八三九、五〇〇円
法人税額 二七七、〇三〇円
納付の確定した税額 一六五、三九〇円
差引法人税額 一一一、六四〇円
無申告加算税額 二八、〇〇〇円
納付すべき税額 一三九、六四〇円
(三) 昭和三四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度
1 昭和三五年六月二九日付課税決定
所得金額 一七〇、三〇〇円
法人税額 五六、一九〇円
無申告加算税額 一四、〇〇〇円
納付すべき税額 七〇、一九〇円
2 昭和三六年四月二七日付更正決定
所得金額 五一一、四〇〇円
法人税額 一六八、七六〇円
納付の確定した税額 五六、一九〇円
差引法人税額 一一二、五七〇円
無申告加算税額 二八、〇〇〇円
納付すべき税額 一四〇、五七〇円
三、しかしながら、原告は、右各事業年度とも所得がなかつたのであるから右課税決定及び更正決定は、何れも違法である。
四、よつて、原告は被告中野税務署長に対し、請求の趣旨第一ないし第三項の各第一号記載のとおり、これが取消を求める次第である。
五、仮りに、右取消請求が出訴期間の経過により認められないときには、原告は、被告国に対し、請求の趣旨第一ないし第三項の各第二号記載のとおり、右法人税租税債務が不存在であることの確認を求めるものである。
六、原告は、昭和三五年六月二九日付各課税決定については、同年七月一九日に熱海税務署長に対し、課税標準に対する再調査の請求をなしたところ、右税務署長は同年一〇月一七日付で右各請求を棄却した。
七、そこで、右各請求棄却に対し、原告は、更に、名古屋国税局長に対し、審査の請求をなしたところ、右国税局長、昭和三六年四月二二日に右各審査請求を棄却した。
八、また、原告は、昭和三六年四月二七日付各更正決定については、すでに会社が解散した後であつたので、不服の申立をしなかつた。
九、原告会社は、経営困難となつたため昭和三五年一〇月一四日に解散したところ、その不動産の譲渡に対し多額の法人税を課税決定されることになつたため、昭和三八年四月二四日に会社を継続することになつた。
一〇、右の次第で、原告会社は、清算中であつたため、前記の課税決定及び更正決定に対し、その取消訴訟につき出訴期間を遵守することができなかつたので、行政事件訴訟法第一四条第三項但書により、継続登記後三月以内に本件訴を提起するものである。
添付書類
一、訴訟代理委任状 一通
二、登記簿謄本 二通
三、有限会社継続登記申請書 一通
昭和三八年七月一七日
右 原告代理人 岡部勇二
東京地方裁判所 御中
(二) 答弁書
一、答弁の趣旨
1 本案前の答弁
被告中野税務署長に対する本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
理由
昭和三五年六月二九日付熱海税務署長の課税処分については法人税法第三七条第二項(昭和三七年法律第六七号による改正前)により審査の決定の通知を受けた日から三箇月以内に訴を提起しなければならないところ原告は昭和三六年四月二二日審査決定の送達を受けたのに拘らず三箇月以内に訴を提起せず出訴期間を遵守しなかつたことは明らかであるから右課税処分の取消を求める本件訴は不適法として却下さるべきである。
なお原告において請求の原因第一〇項において主張するような事実があつたとしても出訴期間を遵守しなかつたことに対する正当な理由とはならない。(原告は原告会社の解散年月日である昭和三五年一〇月一四日の後である同年同月一七日付の前記課税処分に対する熱海税務署長の再調査請求棄却決定に対し昭和三五年一一月一五日付で名古屋国税局長に対し審査の請求を行つている。)
また昭和三六年四月二七日付熱海税務署長の課税処分(再更正処分)については、法人税法第三七条第一項(昭和三七年法律第六七号による改正前)に定める訴願前置の要件を欠いている。よつて右再更正処分の取消を求める本件訴も不適法として却下さるべきである。
2 本案の答弁
被告国に対する本件訴を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
二、請求の原因に対する認否
第一項 認める。
第二項 認める。
第三項 争う。
第四項 争う。
第五項 争う。
第六項 認める。
第七項 認める。
第八項 原告がその主張の再更正処分に対して不服申立をしなかつたことは認める。
第九項 原告がその主張の日に解散したこと、不動産の譲渡に対して法人税を課したこと、およびその主張の日会社の継続登記をしたことは認める。その余は不知。
第一〇項 原告が昭和三五年一〇月二二日から同三八年四月二三日まで清算中であつたことは認める。その余は争う。
三、被告の主張
国を被告とする法人税租税債務不存在確認の請求は熱海税務署長の各課税処分がいづれも有効になされているとの前提を無視するものであつて失当である。